• 2026年6月21日

COPD(慢性閉塞性肺疾患)と好塩基球

今回は院長が大学勤務時代に取り組んでいた研究についてご紹介します。

COPD(慢性閉塞性肺疾患)は、世界中で約2億人が罹患している慢性の肺の病気です。たばこ煙などを長期間吸い込むことで発症し、禁煙した後も進行して、咳、痰、呼吸困難を引き起こします。

同じく気道が狭くなる病気である気管支喘息については、近年研究が進み、IgEやサイトカインを標的とした新しい薬(抗体医薬)が次々と登場しています。一方でCOPD、特に肺気腫がどのようにして起こるのかについては、長らく分かっていないことが多く、根本的な治療法が確立されていませんでした。

COPDのモデルマウスを使って、肺気腫がどのようにして作られるのかを調べました。

主役は「好塩基球」という少数派の白血球だった

注目したのは「好塩基球」という血液細胞です。白血球の中でも1%に満たないごく少数派の細胞で、これまであまり研究が進んでいませんでした。

院長の好塩基球です

マウスの鼻にエラスターゼという酵素を入れると、ヒトのCOPDによく似た肺気腫を起こすことができます。このとき、まず様々な白血球が肺に集まってきて炎症を起こすのですが、驚いたことに、好塩基球だけを取り除いたマウスでは肺気腫が起こりませんでした。

ごくわずかしかいないはずの好塩基球が、肺気腫の発症に大きく関わっていることが分かったのです。

細かい仕組みは…

さらに詳しく調べていくと、次のような流れが見えてきました。

  1. 好塩基球が「IL-4」という物質を分泌する
  2. 肺に入ってきた単球(白血球の一種)が、このIL-4の働きによって「間質マクロファージ」という細胞に変化する
  3. この間質マクロファージが「MMP-12」というタンパク質分解酵素を作り出す
  4. MMP-12が肺の組織を傷つけ、肺気腫が形成される

つまり、ごく少数の好塩基球が引き金となって、別の細胞を「肺を傷つける細胞」に作り変えていた、というわけです。

治療薬開発への期待

この研究によって、これまで謎が多かったCOPD初期の肺気腫形成プロセスが、細胞・分子レベルで明らかになりました。今後、ヒトのCOPDでも同様のプロセスが確認されれば、好塩基球やIL-4、MMP-12を標的とした、新しい予防法、治療薬の開発につながることが期待されます。

「デュピクセント」の登場

実はこの研究から数年後、私たちの仮説を裏付けるような薬が実際に登場しました。「デュピクセント」(一般名:デュピルマブ)です。

デュピクセントは、IL-4とIL-13という2つのサイトカインが結合する受容体(IL-4受容体)をブロックする薬でもともとはアトピー性皮膚炎や気管支喘息の治療薬として使われてきました。

そして2025年3月、このデュピクセントに「COPD(既存治療で効果不十分な患者さんに限る)」の適応が追加されました。COPDに対する初めての生物学的製剤(抗体医薬)です。

私たちの研究では、好塩基球が分泌するIL-4が肺気腫を引き起こす引き金になっていることをマウスで示しました。デュピクセントはまさにそのIL-4の働きをブロックする薬ですので、私たちが基礎研究で追いかけていた経路が治療薬につながった形になります。

もちろん、デュピクセントは誰にでも使える薬ではなく、既存の吸入薬治療で効果が不十分な患者さんが対象です。適応については主治医とよくご相談いただく必要がありますが、「長年治療法の進歩が乏しかったCOPD」に新しい選択肢が増えたことは、患者さんにとって心強いニュースだと思います。

当院でも「肺気腫」「COPD」の患者さんを多く診療しています。基礎研究で得た知見を、日々の診療にも活かしていきたいと考えています。


参考文献

  • Shibata S, et al. Basophils trigger emphysema development in a murine model of COPD through IL-4-mediated generation of MMP-12-producing macrophages. Proc Natl Acad Sci U S A. 2018.
  • サノフィ株式会社 プレスリリース「デュピクセント®、COPDを適応とする製造販売承認事項一部変更承認を取得」2025年3月27日

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